未実施は減算!高齢者虐待防止のために全介護サービス事業者が取り組むべきこと

介護

投稿日:2024.08.05

最終更新日:2024.08.05

ジョブメドレーアカデミー編集部

2024年度から、全介護事業者を対象に高齢者虐待防止の推進に関する取り組みが完全に義務化されました。今回は、虐待防止の取り組み内容や注意点、未実施減算について解説します。対応漏れがないか、事業所の運用状況の確認にご活用ください。

未実施は減算!高齢者虐待防止のために全介護サービス事業者が取り組むべきこと

高齢者虐待防止措置とは

全介護サービス事業者の義務

高齢者の人権擁護と虐待の発生・再発を防止する観点から、2021年度の介護報酬改定で、すべての介護サービス事業者に対して高齢者虐待防止の推進が義務付けられました。事業所が取り組むべき事項は以下の4つです。

  • 定期的な委員会の開催
  • 虐待防止のための指針整備
  • 定期的な研修の実施
  • 虐待防止の担当者を選任

これらは運営基準に追加され、3年間の経過措置を経て2024年4月より完全に義務化されました。

背景に高齢者虐待の増加

高齢者虐待は同居する家族などによるものだけではありません。介護サービス従事者による虐待事件もあとを絶たず、社会問題となっています。下表は厚生労働省が調査した、養介護施設従事者等による高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数の推移です。

2013年には221件だった高齢者虐待の判断件数が、2022年には856件と約3.9倍になりました

厚生労働省|高齢者虐待の実態把握等のための調査研究事業 報告書をもとに作成

2022年度に虐待があったと判断された事例は856件で、前年度より117件(15.8%)増加していました。過去10年間の推移を見ても、2020年度にやや減少したものの、総じて増加傾向にあることが見て取れます。

高齢者虐待防止法(※)により、介護従事者には虐待発見時の通報義務や早期発見の努力義務が課せられています。これらを強化し、介護保険法の目的である高齢者の尊厳の保持・人格尊重を達成するため、4つの取り組みの実施が規定されたのです。
※正式名称「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」

虐待を防止する4つの取り組みの内容と注意点

①定期的な委員会の開催

すべての介護サービス事業者は、虐待防止のための対策を検討する委員会(以下「虐待防止検討委員会」)を設置・開催し、その結果を従業員に周知徹底する義務があります。委員会メンバーは管理者を含めた幅広い職種で構成し、それぞれの役割を明確にしておかなくてはなりません。

虐待防止検討委員会の責務は、施設・事業所内での従業員による虐待や、虐待が疑われる事案が発生した場合に速やかに対応することです。高齢者虐待を発見した場合には、市町村および都道府県への通報義務が課せられています。そして、事実確認をおこなったうえで虐待の発生要因や課題を整理し、再発防止策を検討します。事案がなくても定期的に委員会を開催し、虐待につながる不適切なケアを早期発見・未然防止することや、虐待防止に対する従業員の意識を高めることも大切です。

厚生労働省は、虐待防止検討委員会で検討すべき内容として以下の7項目を示しています。

  1. 虐待防止委員会と施設内の組織に関すること
  2. 虐待防止のための指針の整備
  3. 虐待防止のための職員研修について
  4. 従業者が相談・報告できる体制の整備
  5. 虐待等を把握した場合の市町村への通報に関すること
  6. 虐待の発生原因の分析と再発防止策
  7. 再発防止策を講じた際の効果とその評価

また、「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について(国マニュアル)」に基づき各自治体等でも対応マニュアルを作成しているので、体制整備の参考にするのも一つの手です。

②虐待防止のための指針整備

高齢者虐待防止に関する指針を整備し、従業者に周知徹底する必要があります。

指針に盛り込むべき項目は以下の9点です。

  1. 虐待防止に関する基本的な考え方
  2. 虐待防止検討委員会とその他の事業所内組織に関すること
  3. 虐待防止のための職員研修に関する基本方針
  4. 虐待等が発生した場合の対応方法に関する基本方針
  5. 虐待等が発生した場合の相談・報告体制に関すること
  6. 成年後見制度の利用支援に関すること
  7. 虐待等の苦情解決方法に関すること
  8. 利用者等の指針の閲覧に関すること
  9. その他の虐待防止を推進するために必要なこと

ひな形を用意している自治体もあるので、それらを参考にしながら事業所の実情に合わせて作成すると良いでしょう。

③定期的な研修の実施

介護サービス事業者には、高齢者虐待防止に関する定期的な研修が義務付けられています。開催ペースは年1回または2回以上と定められており、サービス種別によって異なります。

研修回数

対象サービス

年2回以上

・(地域密着型)特定施設入居者生活介護

・認知症対応型共同生活介護

・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護

・介護老人福祉施設

・介護老人保健施設

・介護医療院

年1回以上

その他の介護サービス

上記のほか、従業員の新規採用時にも必ず研修を実施しなければなりません。また、実施した研修内容は記録に残す必要があることも覚えておきましょう。

④虐待防止の担当者を選任

委員会の開催、指針の整備、研修の実施などの取り組みを推進するにあたって、専任の担当者を置かなければなりません。担当者は虐待防止に関する取り組みのすべてを一体的におこなう必要があるため、虐待防止検討委員会の責任者が務めることが望ましいとされています。

ただし、事業所について十分に把握しており、担当者としての職務を遂行することに支障がない者であれば、同一事業所内で兼務しても差し支えありません。

取り組みに関する注意点

虐待はいかなる状況でも発生してはならないため、高齢者虐待防止措置は事業所規模の大小に関わらず実施しなくてはなりません。従業員が数名の小規模な事業所も委員会や研修を開催してください。虐待防止と関連して身体拘束の適正化、リスクマネジメント、認知症ケアなどの委員会を開催している場合は、これらとの一体的な運営も認められています。

居宅療養管理指導や居宅介護支援などは、実質的に従業者が1名だけということもあり得ます。その場合は法人内の他事業所や、地域の小規模事業所と委員会を合同開催するといった工夫も必要でしょう。

研修については外部研修に参加するのも一つの方法ですが、時間や場所の制限を受けにくいオンライン動画研修サービスの活用もおすすめです。小規模事業所も導入しやすい低価格なサービスもあります。

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高齢者虐待防止措置の未実施は減算

高齢者虐待防止措置未実施減算とは

高齢者虐待防止措置未実施減算は、高齢者虐待防止措置がとられていない場合に適用される減算で、2024年度の完全義務化を機に新設されました。先に述べた虐待を防止する4つの取り組みのうち、1つでも未実施の項目があれば基本報酬を減算されます。虐待をしていなければ良いというわけではなく、虐待事案が発生していない場合においても、取り組みがおこなわれていなければ適用の対象です。

2023年度におこなわれた厚生労働省の調査(※)によると、居宅系サービスを中心に虐待防止措置の体制整備が遅れており、実施できている事業所が8割に達していないことが分かりました。高齢者虐待の通報・判断件数が高止まりをしている現状を踏まえ、一層推進すべく未実施に対する減算が設けられました。
※厚生労働省|その他【高齢者虐待の防止、送迎】(改定の方向性)より

未実施減算の単位数と算定要件

高齢者虐待防止措置が講じられていなかった場合は、所定の100分の1に相当する単位数が減算されます。未実施の事実が発覚したときは各自治体に速やかに改善計画を提出し、未実施発覚の3ヶ月後には改善状況を報告してください。未実施発覚の翌月から改善が認められた月までの間が減算適用期間となります。居宅療養管理指導、特定福祉用具販売を除くすべての介護サービスが対象です。

「高齢者虐待防止措置実施の有無」の届出について

高齢者虐待防止措置の義務化を受け、介護サービス事業所は介護給付費算定に係る体制等状況一覧表の「高齢者虐待防止措置実施の有無」を都道府県等に提出しなければなりません。要件を満たしている場合には「基準型」、満たしていない場合には「減算型」の事業所として手続きをおこないます。要件を満たしていても、「基準型」の届け出をしていなければ自動的に「減算型」とみなされるため注意が必要です。

介護給付費算定に係る体制等状況一覧表

指定権者に、介護給付費算定に係る体制等状況一覧表を提出してください

厚生労働省|(別紙一式)介護給付費算定に係る体制等に関する届出等における留意点について【令和6年6月】をもとに作成

充実した研修が虐待防止の実効性を高める

厚生労働省の「高齢者虐待の実態把握等のための調査研究事業 報告書」によると、2022年度に虐待と判断された856件のうち、発生要因として最も多かったのは「教育・知識・介護技術等に関する問題」で、56.1パーセントに上りました。

厚生労働省|高齢者虐待の実態把握等のための調査研究事業 報告書(令和6年3月)をもとに作成

高齢者虐待について従業員が正しい知識を身につけていなければ、無自覚に虐待行為をしてしまう恐れがあります。職員一人ひとりの人権意識を高め、法令遵守を徹底するためにも、定期的に適切な研修をおこなうことが大切です。

ジョブメドレーアカデミーの研修動画では、介護現場の実情を踏まえた高齢者虐待防止策について詳しく解説しています。業務継続計画(BCP)に関する研修をはじめとしたその他の法定研修にも対応しており、運営指導対策にも役立ちます。研修の運用でお悩みの方は、この機会にぜひ導入をご検討ください。

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