【2023年度】訪問介護の特定事業所加算とは? 算定要件、利用者負担

介護

投稿日:2023.11.01

最終更新日:2023.11.01

ジョブメドレーアカデミー編集部

特定事業所加算は訪問介護事業所の経営安定化に効く重要なインセンティブです。算定にあたって満たすべき要件は何か、算定によるデメリットはないのか。事業者の方が押さえておくべき基礎知識や注意点を解説します。

【2023年度】訪問介護の特定事業所加算とは? 算定要件、利用者負担

特定事業所加算とは

質の高いサービスを提供する事業所を評価

特定事業所加算とは専門性の高い人材の確保やサービスの質の向上に取り組む事業所を評価する制度です。国が定めた要件を満たし、事業所所在地の指定権者(都道府県・市区町村)に届け出ることで算定できます。

介護保険法における適用サービスは訪問介護サービスと居宅介護支援サービスのみ。それぞれに加算の区分・要件が設けられており、訪問介護にはⅠ~Ⅴの5つの区分があります。

注意|特定事業所加算の適用サービスについて

介護予防・日常生活支援総合事業における訪問型サービスは加算の対象外です。障害者総合支援法に基づくサービス(居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護)を対象とした特定事業所加算もありますが、介護保険法のサービスとは加算区分や要件が異なります。混同しないようご注意ください。

訪問介護の加算区分と加算率

訪問介護の特定事業所加算は要件の充足状況に応じて、3%~20%の加算を受けられます。特定事業所加算は原則として併算定できませんが、加算ⅢとⅤの組み合わせだけは併算定が可能です。

加算Ⅰは所定単位数の20%、ⅡとⅢは10%、Ⅳは5%、Ⅴは3%が加算されます

特定事業所加算の算定要件

算定要件一覧

加算を取得するには体制要件、人材要件、重度者対応要件を満たす必要があります

体制要件の詳細

1.個別研修計画の作成・実施

登録ヘルパーを含むすべての訪問介護員等に対して(加算Ⅳはサービス提供責任者に対して)、個別に研修計画を作成し、計画に従って研修を実施する、または実施を予定している必要があります。

研修計画に盛り込むこと

①個別具体的な研修の目標
②研修内容
③研修期間
④実施時期など

2.会議の定期的開催

概ね1ヶ月に1回以上、①②のいずれかを目的とした会議を開催することが求められます。会議はサービス提供責任者が主宰し、すべての訪問介護員等が参加すること。テレビ電話装置など(リアルタイムでの画面を介したコミュニケーションが可能な機器)を用いても構いません。

会議の目的

①利用者に関する情報、もしくはサービス提供にあたっての留意事項の伝達
②訪問介護員等の技術指導

3.サービス提供ごとの指示・報告

サービス提供責任者はサービス開始前に各訪問介護員等に対し、担当する利用者の情報や留意事項を文書などの確実な方法で伝達する必要があります。サービス提供後は各訪問介護員等から適宜報告を受けること。指示・報告の記録はサービス提供責任者が文書で保存してください。

サービス開始前の伝達事項

①利用者のADLや意欲
②利用者の主な訴えやサービス提供時の特段の要望
③家族を含む環境
④前回のサービス提供時の状況
⑤その他サービス提供にあたって必要な事項
※④以外は変更があった場合のみ記載するのでも構いません

4.定期健康診断の実施

すべての訪問介護員等に対し、少なくとも1年に1回、事業主の費用負担により健康診断をおこなう必要があります。新たに加算を算定する場合は、1年以内に健康診断が実施される計画をもって届出可能です。

検査項目(労働安全衛生法で定められた項目)

①既往歴および業務歴の調査
②自覚症状および他覚症状の有無の検査
③身長*、体重、腹囲*、視力および聴力の検査
④胸部エックス線検査* および喀痰検査*
⑤血圧の測定
⑥貧血検査(血色素量及び赤血球数)*
⑦肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)*
⑧血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)*
⑨血糖検査*
⑩尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
⑪心電図検査*
※「*」の項目は医師の判断で省略可能です

5.緊急時の対応方法を明示

事業所における緊急時などの対応方法を記載した文書を利用者に説明・交付してください。重要事項説明書に必要事項を明記し、説明・交付するのでも構いません。

明示すべき項目

①当該事業所における緊急時などの対応方針
②緊急時の連絡先
③対応可能時間

人材要件の詳細

6.訪問介護員等の有資格者の割合

訪問介護員等の総数のうち、有資格者の割合が①②のどちらかを満たしている必要があります。割合は、前年度(3月を除く11ヶ月)の実績平均、または届出月の前3ヶ月の1ヶ月あたりの実績平均について、常勤換算方法で算出した数を用いて計算してください。生活援助従事者研修修了者は「0.5」を乗じて算出します。

有資格者の割合

①介護福祉士の占める割合が30%以上
②介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者(看護師等含む)の占める割合が50%以上

7.サービス提供責任者の実務経験

すべてのサービス提供責任者が①②のどちらかを満たしている必要があります。実務経験とはサービス提供責任者として働いた期間ではなく、在宅・施設を問わず介護業務に従事した期間を指します。

ただし人員配置基準により1人を超えるサービス提供責任者の配置が必要な事業所では、常勤のサービス提供責任者を2人以上配置してください。

サービス提供責任者の実務経験

①実務経験3年以上の介護福祉士
②実務経験5年以上の実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者(看護師等含む)

8.人員基準を上回る数の常勤サービス提供責任者を配置

人員配置基準で2人以下の常勤サービス提供責任者が配置されるべき事業所において、①②のどちらも満たしている必要があります。

サービス提供責任者の配置要件

①人員配置基準で配置が必要なサービス提供責任者を常勤により配置
②人員配置基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置

9.勤続年数7年以上の訪問介護員等が30%以上

すべての訪問介護員等のうち、勤続年数7年以上の者が30%以上を占めている必要があります。割合の計算方法は要件6と同様。勤続年数とは当該事業所に勤務する年数に加え、同一法人等が経営するほかの施設等で勤務した年数を含めることが可能です。

重度者対応要件の詳細

10.重度利用者(要介護4以上等)の割合が20%以上

利用者総数のうち、①②③の利用者の割合が20%以上であることが求められます。割合は、前年度(3月を除く11ヶ月)の実績平均、または届出月の前3ヶ月の1ヶ月あたりの実績平均を、利用者実人数もしくは利用回数を用いて計算してください。

対象となる重度利用者

①要介護4・5の利用者
②介護を必要とする認知症(日常生活自立度のランクⅢ・Ⅳ・M)の利用者
③たんの吸引など(口腔内の喀痰吸引、鼻腔内の喀痰吸引、気管カニューレ内の喀痰吸引、胃ろうや腸ろうによる経管栄養または経鼻経管栄養)を必要とする利用者

11.重度利用者(要介護3以上等)の割合が60%以上

利用者総数のうち、①②③の利用者の割合が60%以上であることが求められます。割合は、前年度(3月を除く11ヶ月)の実績平均、または届出月の前3ヶ月の1ヶ月あたりの実績平均を、利用者実人数もしくは利用回数を用いて計算してください。

対象となる重度利用者

①要介護3・4・5の利用者
②介護を必要とする認知症(日常生活自立度のランクⅢ・Ⅳ・M)の利用者
③たんの吸引など(口腔内の喀痰吸引、鼻腔内の喀痰吸引、気管カニューレ内の喀痰吸引、胃ろうや腸ろうによる経管栄養または経鼻経管栄養)を必要とする利用者

注意|ローカルルールについて

要件の見解は指定権者によって異なる場合があります。例えば要件2の会議について、欠席者には追って議事録を共有すれば良いとする自治体もあれば、同じテーマの会議を複数回開催し欠席者を出さないよう求める自治体もあります。届出時は各自治体に詳細を問い合わせてください。

厚生労働省|令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(特定事業所加算)

問1 特定事業所加算(Ⅴ)の勤続年数要件(勤続年数が7年以上の訪問介護員等を30%以上とする要件)における具体的な割合はどのように算出するのか。

勤続年数要件の訪問介護員等の割合については、特定事業所加算(Ⅰ)・(Ⅱ)の訪問介護員等要件(介護福祉士等の一定の資格を有する訪問介護員等の割合を要件)と同様に、前年度(3月を除く11ヶ月間。)又は届出日の属する月の前3月の1月当たりの実績の平均について、常勤換算方法により算出した数を用いて算出するものとする。

問2「訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合が30%以上」という要件について、勤続年数はどのように計算するのか。

・特定事業所加算(Ⅴ)における、勤続年数7年以上の訪問介護員等の割合に係る要件については、

- 訪問介護員等として従事する者であって、同一法人等での勤続年数が7年以上の者の割合を要件としたものであり、

- 訪問介護員等として従事してから7年以上経過していることを求めるものではないこと(例えば、当該指定訪問介護事業所の訪問介護員等として従事する前に、同一法人等の異なるサービスの施設・事業所の介護職員として従事していた場合に勤続年数を通算して差し支えないものである。)。

・「同一法人等での勤続年数」の考え方について、

- 同一法人等(※)における異なるサービスの事業所での勤続年数や異なる雇用形態、職種(直接処遇を行う職種に限る。)における勤続年数

- 事業所の合併又は別法人による事業の承継の場合であって、当該事業所の職員に変更がないなど、事業所が実質的に継続して運営していると認められる場合の勤続年数は通算することができる。

(※)同一法人のほか、法人の代表者等が同一で、採用や人事異動、研修が一体として行われる等、職員の労務管理を複数法人で一体的に行っている場合も含まれる。

問3 勤勤続年数には産前産後休業や病気休暇の期間は含めないと考えるのか。

産前産後休業や病気休暇のほか、育児・介護休業、母性健康管理措置としての休業を取得した期間は雇用関係が継続していることから、勤続年数に含めることができる。

問 36 認知症専門ケア加算における「技術的指導に係る会議」と、特定事業所加算やサービス提供体制強化加算における「事業所における従業者の技術指導を目的とした会議」が同時期に開催される場合であって、当該会議の検討内容の1つが、認知症ケアの技術的指導についての事項で、当該会議に登録ヘルパーを含めた全ての訪問介護員等や全ての従業者が参加した場合、両会議を開催したものと考えてよいのか。

貴見のとおりである。

※出典:厚生労働省|介護サービス関係Q&A

特定事業所加算を取得するメリット・デメリット

主なメリット・デメリット

主なメリットは収益が向上すること、デメリットは利用者負担が増加することです

加算を算定するといくら上乗せされる?

下表は特定事業所加算Ⅱ(10%)を算定した場合の売上の変化です。加算Ⅱは重度利用者要件を満たす必要がないため、特定事業所加算のなかでも最も算定しやすく、売上の見込みが立ちやすいのが特徴です。

加算Ⅱを取得すると、月商200万円なら月20万円、年間240万円売上がアップします

加算取得の可能性をチェック

老老介護や認認介護の増加が社会問題になっている昨今、高齢者の日常生活を支える訪問介護事業所はなくてはならない存在です。利用者負担を考慮して特定事業所加算の算定を控えるといった声もありますが、取れる加算を取らずに経営が不安定になっては元も子もありません。拡大する需要に応え続けるためにも、特定事業所加算の取得を目指しませんか?

まずはご自身の事業所が加算を算定できる状態かどうかをお確かめください。