特定事業所加算で返還が生じる3大パターン 算定要件を理解していなかった 算定要件をよく理解しないまま加算の届出をした結果、誤解や思い込みから適正な運用ができずに返還が生じる ケースがあります。届出時は書類の不備を指摘する程度で、算定要件の適合状況まで精査する自治体は多くありません。運用に関する細かい調査は主に運営指導でおこなわれるため、要件を正しく理解していないと加算取得後に過誤が判明することになります。
運営指導における指摘事項の例
特定事業所加算(Ⅰ)に関する事項
① 訪問介護員ごとの個別具体的な研修の目標、内容、期間、実施時期等を定めた計画を作成することとされている。事業所全体の研修計画は作成されているが、個別具体的な計画を作成していない ので、作成の上、研修を実施すること。
② 指定訪問介護の提供に当たっては、サービス提供責任者が、担当する訪問介護員に対して当該利用者に関する情報やサービス提供に当たっての留意事項を文書等により伝達してから開始するとともに、サービス提供終了後、訪問介護員から報告を受け、その内容を文書で記録することとされているが、口頭のみにより行われている とのことから改善すること。
③ 全ての訪問介護員が健康診断を定期的に行うこととされているが、非常勤職員4名の健康診断を実施していない ので、実施すること。
④ 前年度の利用者のうち、要介護4及び5である者等の割合が 20%以上であることが要件であるが、前年度の割合を算出していない ので算出すること。
出典:岩手県| R2年度:実地指導の主な指摘事項(サービス別) (最終アクセス:2023年9月14日)
取得後に自己点検をしていなかった 算定開始後に要件を欠いてしまったことに気がつかず、運営指導で指摘を受けてしまう ケースもあります。職員の入退職があれば有資格者の割合に、軽度利用者が増えれば重度利用者の割合に影響します。加算取得後もすべての要件を満たし続ける必要があるため、事業所の運営状況や体制要件の実施状況を定期的に確認・記録することが重要です。
違反を承知で要件を満たさなかった 「忙しくてできなかった」「面倒だからやらなかった(または「やっている振りをした」)」など、算定要件を満たしていないことを知りながら放置していれば、当然返還の対象になります。怠慢どころか虚偽や隠蔽が判明すれば、不正額の返還だけではすまされません。指定の効力停止や指定取消などの重い処分を受ける可能性がある ことを覚えておいてください。
>算定要件の詳細はこちら【2024年改定版】訪問介護の特定事業所加算とは? 算定要件を詳しく解説
運営指導(実地指導)で指摘を受けた場合の対応方法 自己点検後に自主返還(過誤調整)をおこなう 運営指導で算定要件の理解不足等から要件を満たしていなかったことが判明すると、ほかにも同様の誤りがないか自己点検したうえで過誤調整をおこなうよう指導されます。その場合は誤りを認めて加算を自主返還し、「これは請求上のミスであり不正請求ではない」 ことを伝えます。もしも指導内容の根拠が不明瞭で納得できないときは、自治体に説明を求めましょう。
不正請求は行政処分の対象 運営指導後に監査が実施され、単なる誤りではなく不正請求があったことが判明 すると、介護保険法第22条3項 に基づき返還措置が取られます。この返還は行政指導ではなく強制力を持つ行政処分であり、場合によっては「返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を徴収」 (同条同項)されます。
監査は、運営指導で不正請求の疑いがあると判断された 場合や、指導を受けても改善せず適正な自主返還をしなかった ときなどにおこなわれます。監査で不正が確認された際はもちろん、正当な理由なく調査に協力しない場合も行政処分の対象です。書類の改ざんや偽造、虚偽の報告をすれば不正請求額の大小に関わらず厳しい処分を受けるため、監査が入ったときは誠実に対応することが大切です。
返還の対象期間と時効について 返還の対象期間はケースバイケース で、不備があった月のみの場合もあれば、それよりも遡って返還を求められる場合もあります。また、届出時点で要件を満たしていなかったことが判明し、指導を受けても改善しないときは、特定事業所加算の届出の受理が取り消されます。この場合は特定事業所加算の請求全体が無効 となるため、それまでに受領していた加算を返還しなければなりません。
ただし、加算の返還請求には消滅時効 があります。運営指導で過誤請求が認められた場合、指導のあった月から最長で5年まで遡って自主返還することになりますが、「遡る期間(=消滅時効)」は不正請求か否かで異なります。
特定事業所加算の返還事例3選 自主返還事例
青森県 指定訪問介護事業所
<現状および問題点> 特定事業所加算(Ⅱ)を算定しているが、以下の要件を満たしていない。 ・一部の訪問介護員等ごとの研修計画を作成していない。 ・一部の訪問介護員等に対し健康診断を定期的に実施していない。
<指導事例> 特定事業所加算(Ⅱ)を算定する場合は、備考欄の告示及び通知に定める要件を確実に満たすこと。 なお、加算の算定要件を満たしていない期間については、加算の算定は認められないため、過去5年間の全件について自主点検の上、該当する期間の当該加算について過誤調整を行うこと 。
<根拠等> (後略)
出典:青森市| 介護サービス事業者等に対する指導事例【報酬算定基準】 ※太字・赤字を加工(最終アクセス:2023年9月14日)
行政処分事例
北海道 指定訪問介護事業所
<行政処分の内容> 指定取消
<行政処分の理由> ◆不正請求 (1) 特定事業所加算(Ⅱ)の不正請求 令和3年3月から令和3年9月までの間、特定事業所加算(Ⅱ)の算定に係る体制要件(※1)を欠きながら、特定事業所加算(Ⅱ)を算定し、訪問介護費を不正請求した。 ※1体制要件: 計画的な研修の実施 会議の定期的開催 文書等による指示及びサービス提供後の報告
(2) 介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)の不正請求 令和3年3月から令和3年9月までの間、介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)の算定に係る介護福祉士の配置等要件(※2)を欠きながら、介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)を算定し、訪問介護費を不正請求した。 ※2 介護福祉士の配置等要件: 訪問介護に当たっては、特定事業所加算(Ⅰ)又は(Ⅱ)を算定していること。上記(1)のとおり、特定事業所加算(Ⅱ)の算定要件を満たしておらず、不正請求であったため、介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)の算定要件も満たしていなかったものである。
◆人員基準違反 令和3年3月、5月、6月、7月における訪問介護員の配置基準を満たしていなかった。
<行政処分の介護保険法上の根拠> (中略)
<経済上の措置> 不正に請求して受領していた介護報酬を返還 させるほか、介護保険法第 22 条第3項の規定により、当該返還金額に 100 分の 40 を乗じて得た加算額を請求 する。
返還請求額
約 46万円
加算額
約 18万円
返還金額
約 64万円
出典:札幌市| 介護サービス事業者に対する行政処分について ※太字・赤字・表を加工(最終アクセス:2023年9月14日)
北海道 指定訪問介護事業所
<行政処分の内容> 指定取消
<行政処分の理由> ◆不正請求 (1) 特定事業所加算(Ⅰ)の不正請求 令和元年 10 月から令和3年9月までの間、特定事業所加算(Ⅰ)の算定に係る体制要件(※1)を欠きながら、特定事業所加算(Ⅰ)を算定し、訪問介護費を不正請求した。 ※1 体制要件: 計画的な研修の実施 会議の定期的開催 文書等による指示及びサービス提供後の報告
(2) 介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)の不正請求 令和3年4月から令和3年9月までの間、介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)の算定に係る介護福祉士の配置等要件(※2)を欠きながら、介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)を算定し、訪問介護費を不正請求した。 ※2 介護福祉士の配置等要件: 訪問介護に当たっては、特定事業所加算(Ⅰ)又は(Ⅱ)を算定していること。上記(1)のとおり、特定事業所加算(Ⅰ)は算定要件を満たしておらず、不正請求であったため、介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)の算定要件も満たしていなかったものである。
(3) 指定訪問介護事業所と同一の敷地内若しくは隣接する敷地内の建物若しくは指定訪問介護事業所と同一の建物等に居住する利用者に対する減算(以下、同一建物減算という)の不正請求 令和元年 10 月から令和3年9月まで、事業所と同一の建物に居住する利用者について、同一建物減算を適用せず、訪問介護費を不正請求した。(4) 居宅ではない場所でのサービス提供による不正請求 訪問介護は居宅においてサービス提供するものであり、居宅ではない場所でのサービス提供は認められていない。しかし、認知症対応型通所介護事業所の宿泊サービス利用中の利用者に対し、宿泊サービス利用中に宿泊サービスの場所で訪問介護を提供し、訪問介護費を不正請求した。
◆人員基準違反 管理者が地域密着型通所介護事業所、認知症対応型通所介護事業所の管理者を兼務しているが、訪問介護事業所の実態はこれらの事業所とは併設していないため、兼務ができないにもかかわらず、兼務を行った。
<行政処分の介護保険法上の根拠> (中略)
<経済上の措置> 不正請求により受領した訪問介護費 のほか、介護保険法第 22条第3項の規定により、当該不正請求額に 100 分の 40 を乗じて得た加算額を合わせて請求 する。
返還請求額
約 862万円
加算額
約 345万円
返還金額
約 1,207万円
出典:札幌市| 介護サービス事業者に対する行政処分について ※太字・赤字・表を加工(最終アクセス:2023年9月14日)
返還にならないために 算定要件を正しく理解する 特定事業所加算の返還を防ぐためには、算定要件をよく読み理解することが鉄則です。知識不足はリスクでしかありません。運営指導で過誤の指摘を受け、「やらなければならないことを知らなかった」「このやり方で問題ないと思っていた」と悔やむことがないよう、届出書を提出するまでに必ず算定要件を確認 してください。
算定要件を遵守する 加算を取得するからにはすべての算定要件を満たし続けなければなりません。算定開始後に入職した職員の研修計画の作成を忘れたり、多忙を理由にサービス提供ごとの指示・報告を怠ったりすれば、要件を欠いたことになります。油断や怠慢は行政指導に直結 することを認識し、適正な運用を心がけましょう。
自己点検を怠らない 算定要件を欠いたまま加算を取得し続けることがないよう、事業所の運営状況を定期的に点検し、算定の根拠となる記録を残してください。運営指導で根拠記録を示せなければ返還を求められる可能性がある ため、各記録は5年間保存 ※ しましょう。
自己点検により要件を満たさないことが判明した場合は、速やかに加算の変更・廃止 を届け出てください。
※ 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 では2年間の保存とされていますが、介護給付費返還請求の消滅時効を踏まえ、多くの自治体が5年間保存するよう条例で定めています。加算算定にあたっては管轄する自治体の条例を確認してください。
サポートサービスを利用する 返還のリスクを懸念 して特定事業所加算の算定をためらっている方は、加算取得サポートサービスの利用をおすすめします。特定事業所加算の届出後に過誤調整が生じれば利用者からの信頼を失いかねません。もしも行政処分を受けたら、その事実は公表され、事業所の社会的信用が失墜します。反対に、算定要件さえ遵守していれば返還を求められることはありません 。継続的に加算を得られるため、安定した経営を維持できます。
ジョブメドレー加算サポートは特定事業所加算の取得・維持を目指す訪問介護事業所を支援します。返戻や返還のリスクを減らす ためにも、ご利用をご検討ください。