BCPとは
緊急時に備える業務継続計画
BCP(Business Continuity Plan)とは災害や感染症の大流行、テロ事件など、不測の事態が発生した際にも重要な事業を中断させない、あるいは早期復旧を図るための事業継続計画のことです。障がい福祉サービスにおいては「業務継続計画」と呼ばれ、2021年度の障害福祉サービス等報酬改定で計画の策定と研修・訓練(シミュレーション)の実施が義務化されました。
義務項目と主な留意事項
計画 | ・感染症および災害発生時のBCPを策定すること ・計画は施設・事業所単位で策定する ・ただし複数の施設・事業所を持つ法人では、法人本部としてのBCPも別途策定することが望ましい ・感染症と災害のBCPは一体的に策定しても構わない |
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研修 | ・感染症および災害のBCPに係る研修を定期的におこなうこと ・入所・入居系サービスは年2回以上、訪問系・通所系・相談系サービスは年1回以上実施する(新規採用時は別途実施) ・研修はすべての従業者が参加できるようにすることが望ましい ・感染症のBCP研修は、感染症の予防およびまん延防止のための研修と一体的に実施しても構わない |
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訓練 | ・感染症および災害のBCPに係る訓練(シミュレーション)を定期的に実施すること ・入所・入居系サービスは年2回以上、訪問系・通所系・相談系サービスは年1回以上実施する(新規採用時は別途実施) ・訓練はすべての従業者が参加できるようにすることが望ましい ・感染症のBCP訓練は、感染症の予防およびまん延防止のための訓練と一体的に実施しても構わない |
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BCP対策の対象サービス
BCP対策は、2021年4月から3年間の経過措置期間(努力義務)を経てすべての障がい福祉サービス等事業者を対象に義務化されました。2024年4月からはBCPの策定だけでなく、研修・訓練を必ず実施しなければなりません。日々業務に追われている職員にも無理なくBCP研修を受講してもらうため、オンライン動画研修サービスを活用するのもひとつの手です。
BCPの必須項目とポイント
BCPに記載すべき項目
厚生労働省は感染症および災害に係るBCPについて、平常時と緊急時に分けて備えや対応を整備するよう求めています。障がい福祉サービス等事業者は利用者の健康・身体・生命を守る重要な責任を担っており、入所施設においてはとくに自施設が被災してもすべての業務を停止するわけにはいきません。発災時にも利用者と職員の安全を確保し、地域に貢献できるように準備を進めることが大切です。
感染症に係るBCP | ①平時からの備え 例:体制の構築と整備、感染症防止に向けた取り組みの実施、防護具や消毒といった備蓄品の確保など ②初動対応 例:感染疑い者が発生したときの報告先や報告方法、感染疑い者への対応、消毒・清拭の実施、検査など ③感染拡大防止体制の確立 例:保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有、職員の確保など |
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災害に係るBCP | ①平常時の対応 例:建物や設備の安全対策、電気・水道等のライフラインが停止した場合の対策、トイレや汚物対策、必要品の備蓄など ②緊急時の対応 例:BCPの発動基準、対応体制、職員の参集基準、安否確認の流れ、避難場所や避難方法、重要業務の継続方法など ③他施設および地域との連携 例:連携体制の構築、災害福祉支援ネットワークへの参画、福祉避難所の開設準備など |
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BCP策定の重要ポイント
BCPの策定でとくに大事なのが、事業や業務の優先順位を定めることです。交通網の麻痺や感染症による自宅待機など、有事の際は職員の多くが出勤できなくなる可能性があります。限られた人的資源・経営資源を有効活用するため、最低限継続すべき事業や優先すべき重要業務の洗い出しをおこないましょう。そのうえで、職員の出勤率(稼働率)ごとに継続必須の業務を選定することが大切です。
BCP策定に関するメリット・デメリット
策定のメリット:利用者や職員を守れる
職員がいざというときに利用者の命を守るための行動を取れるようになり、安全性の高い事業所として利用者や家族はもちろん、地域からも信頼を得られます。BCPは職員自身の安全と雇用の確保に直結するので、研修や訓練によって安心感が生まれ、職員の離職防止にもつながります。
またBCPを策定することで、感染症拡大時にワクチンを優先的に接種(新型インフルエンザ等対策特別措置法)できたり、税制措置や金融支援、補助金などの支援を受けられたりする場合もあります。
<支援の例>
BCPを策定し、中小企業強靭化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定を取得した障がい福祉サービス等事業者は、一定の要件を満たすことで以下の支援を受けられます。
税制措置 | 2025年3月31日までに認定を取得し、計画に記載された防災・減災のための整備を導入して事業に使用した場合、特別償却18%(※)の税制措置を受けられる ※2025年4月1日以降に導入する整備は特別償却16% 詳細:中小企業庁|BCPはじめの一歩 事業継続力強化計画をつくろう
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金融支援 | ・BCPなどに基づいて防災のために施設や事業所の整備をおこなう際、低金利で融資を受けられる ・信用保険の保証枠が別枠で追加される 詳細:日本政策金融公庫|社会環境対応施設整備資金
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補助金 例:東京都 | BCPを実践するための設備・物品の購入、設置にかかる費用の一部(※)が助成される ※中小企業者等は助成対象経費の1/2以内、小規模企業者は助成対象経費の2/3以内。助成上限1,500万円 詳細:東京都中小企業振興公社|BCP実践促進助成金
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※2024年1月5日時点の内容です
未策定のデメリット:基本報酬が減算される
2024年度障害福祉サービス等報酬改定で業務継続計画未策定減算が新設されました。2024年4月1日以降にBCPを未策定であることが判明した場合は、基準を満たさない事実が生じた時点まで遡って減算が適用されます。
・生活介護事業所が2024年10月の運営指導でBCP未策定が判明した場合
→【✗】2024年10月から減算 【◯】2024年4月まで遡って減算
2025年3月31日までは経過措置として減算が適用されないサービスもありますが、それらも運営基準違反にあたるため指導対象となります。
<業務継続計画未策定減算>
減算幅
・施設系・居住系サービス:所定単位数の3%
・訪問系・通所系サービス:所定単位数の1%
経過措置
・居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援、自立生活援助、就労定着支援、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援、計画相談支援、障害児相談支援、地域移行支援、地域定着支援は、2025年3月31日まで減算の適用を受けない
・就労選択支援は2027年3月31日まで減算の適用を受けない
・その他のサービスも「感染症の予防とまん延防止の指針」と「非常災害に関する具体的計画」を策定していれば、2025年3月31日まで減算の適用を受けない
策定をスムーズに進めるために
BCP委員会を設ける
BCPは全職員で取り組まなければ実効性のあるものにはなりません。現場の声を広く吸い上げて対策を検討するために、まずは法人内にBCP委員会を設けましょう。委員は職員の意見を引き出し、取りまとめることができる人を選出する必要があります。事業や現場の状況把握、課題の洗い出しもおこなうため、拠点が多数ある場合は施設や事業所、サービスごとの責任者・管理者が、拠点が少ない場合は各部署、各職種の責任者が適任といえます。委員会はBCP策定後の研修や訓練、計画の見直しにおいても中心的な役割を担う存在となります。
厚生労働省のガイドライン・ひな形を活用する
BCPを策定する方法がわからない、2024年度からの義務化に間に合わせたいという方は、厚生労働省が提示する以下のガイドラインとひな形を活用することをおすすめします。ガイドラインを参照しながらひな形を埋めていけば、必要最低限のBCPが完成します。最初から完璧なものをつくろうとせず、BCP委員会を中心に、自施設・自事業所の状況にあわせて少しずつブラッシュアップしていきましょう。
出典:厚生労働省|障害福祉サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン
出典:厚生労働省|障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン
厚生労働省のひな形一覧
出典:厚生労働省|障害福祉サービス事業所等における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修
出典:厚生労働省|障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン等
自然災害BCPの作成例
厚生労働省が示す自然災害BCPのガイドラインに基づき、通所系サービスにおける「緊急時の対応(安否確認、施設内外での避難場所・避難方法)」の記入例を作成しました。実際に作成する際は、自事業所の実情にあわせて見直してください。
緊急時の対応 安否確認
①利用者の安否確認
【安否確認ルール】
・災害発生時は電話で利用者の安否確認をおこなう
・電話ができない場合はメール、SNS、災害用伝言ダイヤル(171)、災害用伝言板(web171)等を使用、近距離の利用者は可能な限り訪問して確認する
・安否確認には安否確認シート(別紙)を活用する
・サービス提供中に被災した場合は利用者の安否確認後、利用者家族に状況を連絡して帰宅を支援する(家族に直接引き継げないときは原則待機)
・サービス提供中に負傷者が発生した場合は応急処置をおこない、必要に応じて××総合病院へ搬送する
【医療機関への搬送方法】
・協力医療機関 ××総合病院(連絡先 ××-××××-××××)
・受入れ確認の後、送迎車にて搬送
<Check>
・サービス提供中に被災した場合に備え、利用者の緊急連絡先は複数(連絡先、連絡手段)把握しておくことが望ましい
・特定相談支援事業所と連携し、利用者への安否確認方法などをあらかじめ整理しておく
②職員の安否確認
【事業所内】
・職員の安否確認は利用者の安否確認とあわせておこない、管理者に報告する
・安否確認の結果は職員安否確認シート(別紙)に記録する
【自宅等】
・自宅等で被災した場合(自地域で震度5強以上)は、①電話、②SNS、③災害用伝言ダイヤル(171)、④災害用伝言板(web171)で事業所に自身の安否情報を報告する
・報告事項は、氏名、自身と家族の安否、自宅の被害状況、出勤可否
・安否確認の結果は職員安否確認シートに記録する
<Check>
・災害用伝言ダイヤル(171)や災害用伝言板(web171)はBCP訓練の一環として体験利用可能
緊急時の対応 施設内外での避難場所・避難方法
【施設内】
第1避難場所 | 玄関ホール(1階) |
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第1避難方法 | ・利用者がいる場合は、職員が各室をまわって安全に留意しながら避難誘導する ・避難場所を大声で周知しながら集合する ・安心させるように声かけをする ・頭をクッション等で保護し、できるだけ靴を履く ・肢体不自由者(児)の避難は極力複数人で補佐する |
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第2避難場所 | 多目的室(2階) |
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第2避難方法 | 第1に同じ |
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【施設外】
第1避難場所 | 駐車場 |
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第1避難方法 | ・利用者がいる場合は、職員が各室をまわって安全に留意しながら避難誘導する ・避難時は靴を履く ・状況に応じて上着や雨具などを用意する ・肢体不自由者(児)の避難は極力複数人で補佐する ・事業所内に取り残された者がいないか、大声で確認しながら避難する ・避難時持ち出し袋を忘れない(担当:●●) |
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第2避難場所 | ××小学校 |
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第2避難方法 | ・利用者がいる場合は、職員が各室をまわって安全に留意しながら避難誘導する ・事業所内に取り残された者がいないか、大声で確認しながら避難する ・避難時は靴を履く ・徒歩で移動する場合ははぐれないようにロープなどを使い、車や落下物にも注意する ・車両で避難できる場合は送迎車を使用、状況次第で職員の自家用車も使う ・肢体不自由者(児)の避難は極力複数人で補佐する ・避難時持ち出し袋を忘れない(担当:●●) |
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定期的な研修でBCP文化を定着させよう
BCPは策定して終わりではなく、施設や事業所が存続する限り継続していくべき活動です。緊急事態が発生したときに有効に活用できるよう、定期的な研修・訓練によって職員一人ひとりのリスクに対する意識を高め、実効性の向上に努めましょう。
ジョブメドレーアカデミーの研修動画では、厚生労働省のガイドラインに沿ってBCPを策定する方法を詳しく解説しています。BCP対策の一環として実施が義務づけられた職員向けのBCP研修もご用意しているので、業務の優先順位づけや職員教育などBCPの策定・運用にお困りの方は、ジョブメドレーアカデミーの導入をご検討ください。