作成例付き|介護施設のBCPとは? 訪問介護も未策定は減算対象に!
投稿日:2023.12.28
最終更新日:2025.01.30
ジョブメドレーアカデミー編集部
2024年4月より介護事業におけるBCP(業務継続計画)の策定が完全義務化となりました。本記事では義務化項目や未策定減算、BCPをスムーズに策定する方法などを解説します。対応に不安のある方は、BCP策定時に参考になさってください。

目次
BCPとは
不測の事態に備える業務継続計画
BCP(Business Continuity Plan)とは災害や感染症の大流行、テロ事件など、不測の事態が発生した際にも重要な事業を中断させない、あるいは早期復旧を図るための事業継続計画のことです。介護事業においては「業務継続計画」と呼ばれ、2021年度の介護報酬改定で計画の策定と研修・訓練(シミュレーション)の実施などが義務付けられました。
BCPの義務項目と主な留意事項
計画 | ・感染症および災害発生時のBCPを策定・周知し、定期的に見直すこと |
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研修 | ・感染症および災害発生時のBCPに係る研修を定期的におこなうこと |
訓練 | ・感染症および災害発生時のBCPに係る訓練(シミュレーション)を定期的に実施すること |
BCP対策の対象サービス
BCP策定と研修・訓練の実施は、2024年4月より居宅療養管理指導を除く(※)すべての介護事業者を対象に完全義務化されました。介護施設・事業所は利用者やその家族の生活に欠かせない存在です。緊急事態に遭遇しても介護サービスの提供を極力中断しないように、BCPを策定し、研修・訓練をおこないましょう。BCP研修はオンライン動画研修サービスを活用することで、業務で忙しい職員たちに無理なく受講してもらえます。
※居宅療養管理指導は2026年度末までにBCP策定等をおこなう必要があります
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緊急事態に求められる介護事業者の役割
サービスの継続
介護事業者は利用者の健康・身体・生命を守る重要な責任を担っているため、いかなる状況でもサービス提供を続けることが求められます。とくに利用者に「生活の場」を提供している入所施設は、たとえ自施設が被災してもすべての業務を停止するわけにはいきません。自力でサービスを提供する場合と他所へ避難する場合について、しっかりと検討・準備する必要があります。
通所系・訪問系の事業所もサービスを継続できるよう努めなければなりません。しかし業務の縮小や事業所の閉鎖を余儀なくされる可能性もあるため、そうした非常時に利用者への影響を最小限に抑えられるよう検討・準備しておくことが大切です。
利用者の安全確保
介護事業者は利用者の安全を守るための対策を講じ、確実に実行する必要があります。介護保険サービスの利用者は高齢者や疾病を持つ方々です。感染症にかかると重症化するリスクが高く、集団感染が起これば深刻な人的被害が生じる可能性があります。自力で移動できない方も多いため、災害発生時は避難に時間も人手もかかるでしょう。そうした要介護者の特性を踏まえて、利用者の安全確保に向けた準備をすることが重要です。
職員の安全確保
サービスの継続も利用者の安全確保も、職員の安全が確保されなければ何一つ実現できません。感染拡大時や自然災害発生時は職員にとって過酷な労働環境となることが予測されます。職員の感染防止対策はもちろん、過重労働やメンタルヘルスへの対応を適切におこなうことも事業者の大事な責務です。
地域への貢献
自然災害発生時には社会福祉事業としての公共性を鑑み、施設や事業所がもつ機能を活かして地域に貢献することも期待されます。施設が無事であれば被災した近隣の要介護者の受け入れを求められる可能性もあります。福祉避難所を運営できるよう、必要な物資の確保や資機材の準備などにも取り組みましょう。
BCPに盛り込むべき内容
BCPの必須項目
厚生労働省は感染症および災害に係るBCPにおいて、以下の項目を記載するよう定めています。
感染症BCP | ①平時からの備え ②初動対応 ③感染拡大防止体制の確立 |
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災害BCP | ①平常時の対応 ②緊急時の対応 ③他施設および地域との連携 |
BCP策定の重要ポイント
BCPの策定でとくに大事なのが、事業や業務の優先順位を定めることです。交通網の麻痺や感染症による自宅待機など、有事の際は職員の多くが出勤できなくなる可能性があります。しかし被災直後の厳しい状況でも、利用者の生命維持に必要な事業や業務を休止するわけにはいきません。限られた人的資源・経営資源を有効活用するため、最低限継続すべき事業や優先すべき重要業務をあらかじめ整理しておきましょう。そのうえで、職員の出勤率(稼働率)ごとに継続必須の業務を選定しておくことが大切です。
BCPを策定する5大メリット
①利用者を守れる
非常事における対応があらかじめ決まっていることで、職員がいざというときに利用者の命を守るための行動を取れるようになります。重要業務を迷いなく遂行できるため、被災しても早期復旧が叶い、安全性の高い施設・事業所として利用者や家族、地域から信頼を得られます。
②職員の帰属意識が高まる
職種や役職を問わず意見交換をしながらBCPを策定することで、職員の帰属意識が向上します。またBCPは職員自身の安全と雇用の確保に直結するため、研修や訓練によって安心感が生まれ、職員の離職防止にもつながります。
③業務改善につながる
BCPを策定するときは従来よりも少ない人員、限られた資源で業務を遂行する方法を検討するため、平常時においても業務効率化や資源の最適化が進みます。加えて事業の優先順位も明確になるので、経営戦略や事業戦略の見直しもおこなえます。
④税制優遇・金融支援・補助金が受けられる
BCPを策定し、中小企業強靭化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定を取得した介護事業者は、一定の要件を満たすことで税制措置や金融支援、補助金などの支援を受けられます。
税制措置 | 2025年3月31日までに認定を取得し、計画に記載された防災・減災のための設備を導入して事業に使用した場合、特別償却18%(※)の税制措置を受けられる
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金融支援 | ・BCPなどに基づいて防災のために施設や事業所の整備をおこなう際、低金利で融資を受けられる
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補助金 | BCPを実践するための設備・物品の購入、設置にかかる費用の一部(※)が助成される
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※上記は2025年1月28日時点の内容です
このほかにも、BCPに関連する補助金・助成金を独自に用意している自治体が多数あります。申請期限に間に合うよう、各自治体のホームページを早めに確認することをおすすめします。
⑤ワクチンを優先的に接種できる
感染症発生時のBCPを策定している介護施設・事業所の職員は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の第28条に基づき、感染症拡大時にワクチンの優先接種(特定接種)が受けられます。

策定をスムーズに進める方法
BCP委員会を設置する
BCPは全職員で取り組まなければ実効性のあるものにはなりません。現場の声を広く吸い上げて対策を検討するために、まずは法人内にBCP委員会を設けましょう。委員は職員の意見を引き出し、取りまとめることができる人を選出する必要があります。事業や現場の状況把握、課題の洗い出しもおこなうため、拠点が多数ある場合は施設・事業所ごとの責任者や管理者が、拠点が少ない場合は各部署、各職種の責任者が適任といえます。委員会はBCP策定後の研修や訓練、計画の見直しにおいても中心的な役割を担う存在となります。
厚生労働省のガイドライン・ひな形を活用する
BCPを策定する方法がわからないという方は、厚生労働省が提示する以下のガイドラインとひな形を活用することをおすすめします。ガイドラインを参照しながらひな形を埋めていけば、必要最低限のBCPが完成します。最初から完璧なものをつくろうとせず、BCP委員会を中心に、自施設・自事業所の状況にあわせて少しずつブラッシュアップしていきましょう。

厚生労働省|介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン
厚生労働省|介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン
厚生労働省のひな形一覧
新型コロナウイルス感染症編 | 自然災害編 |
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出典:厚生労働省|介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修(最終アクセス:2023年12月27日)
自然災害BCPの作成例
厚生労働省が示す自然災害BCPのガイドラインに基づき、入所系サービスにおける「緊急時の対応(BCP発動基準、対応体制)」の記入例を作成しました。実際にBCPを策定する際は、自施設の実情にあわせて見直してください。
緊急時の対応 BCP発動基準
【地震による発動基準】
・施設所在地域において震度6弱以上の地震が発生し、被災状況や社会的混乱などを総合的に勘案して施設長が必要と判断した場合
・震度6弱未満であっても、建物の一部倒壊やライフライン(電気・水道・ガス)の停止、通信手段の途絶、道路の寸断などが起きて孤立化し、通常業務の継続が難しくなった場合
【水害による発動基準】
・大雨警報(警戒レベル3)が発表され、かつ、避難情報(警戒レベル3)「高齢者等避難」が発令された場合
・水害により建物の一部倒壊やライフライン(電気・水道・ガス)の停止、通信手段の途絶、道路の寸断などが起きて孤立化し、通常業務の継続が難しくなった場合
・被災状況や社会的混乱などを総合的に勘案し、施設長が必要と判断した場合
管理者:施設長 |
代替者:事務長 |
【Check】
・ハザードマップなどにより洗い出したリスクに対し、発動基準を記載する
・管理者が不在の場合の代替者も決めておく
緊急時の対応 対応体制
地震防災活動隊 | ・隊長は地震災害応急対策の実施全般について一切の指揮をおこなう
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情報班 | ・行政や外部機関と連絡を取り正確な情報を集める
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消火班 | ・地震発生直後は直ちに火元の点検、ガス漏れの有無などの確認をし、発火防止に万全を期す
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応急物資班 | ・食料や飲料水などの確保に努める
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安全指導班 | ・利用者の安全や施設設備の損傷を確認して報告する
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救護班 | ・傷病・体調不良者の救護や手当をおこなう
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地域班 | ・地域住民や近隣の福祉施設と共に救護活動をおこなう
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BCP未策定は基本報酬減算
業務継続計画未策定減算が新設
2024年度介護報酬改定で業務継続計画未策定減算が創設されました。BCP対策完全義務化(2024年4月1日)以降に運営指導等でBCPの未策定、かつ、BCPに従い必要な措置が講じられていないことが判明した場合は、基準を満たさない事実が生じた時点まで遡って減算が適用されます。
2025年3月31日までは経過措置として減算が適用されないサービスもありますが、経過措置が終了する2025年4月以降はすべての事業所が減算対象(※)となります。
また、「感染症の予防とまん延防止の指針」と「非常災害に関する具体的計画」を策定していれば2025年3月31日までは減算が適用されない経過措置もありますが、こちらも同様に2025年4月以降はBCP未策定の場合は減算対象となります。
※居宅療養管理指導、介護予防居宅療養管理指導、特定福祉用具販売及び特定介護予防福祉用具販売は除く
<業務継続計画未策定減算>
減算幅
・施設系・居住系サービス:所定単位数の3%
・その他のサービス:所定単位数の1%
経過措置
・訪問系サービス・福祉用具貸与・居宅介護支援は、2025年3月31日まで減算の適用を受けない
・その他のサービスも「感染症の予防とまん延防止の指針」と「非常災害に関する具体的計画」を策定していれば、2025年3月31日まで減算の適用を受けない
・「感染症の予防とまん延防止の指針」と「非常災害に関する具体的計画」を策定していない通所介護事業所が、2025年10月の運営指導でBCP未策定が判明した場合
→【✗】2025年10月から減算 【◯】2024年4月まで遡って減算
「業務継続計画策定の有無」の届出をお忘れなく
減算適用サービスで減算とならない場合(BCP策定済みの施設・事業所)は、体制状況一覧表等の「業務継続計画策定の有無」について「基準型」で届出をする必要があります。未届けは「減算型」とみなされるためご注意ください。
※届出方法は自治体により異なります
BCP文化定着の鍵は研修と訓練にあり

BCPは策定して終わりではなく、施設や事業所が存続する限り継続していくべき活動です。緊急事態が発生したときに有効に活用できるよう、定期的な研修・訓練によって職員一人ひとりのリスクに対する意識を高めつつ、実効性の向上に努めましょう。
ジョブメドレーアカデミーの研修動画では、厚生労働省のガイドラインに沿ってBCPを策定する方法を詳しく解説しています。BCP対策の一環として義務づけられた職員向けのBCP研修もご用意しているので、BCPの策定・運用にお困りの方は、ジョブメドレーアカデミーの導入をご検討ください。
受付時間 9:30 〜 18:00(平日)
参考
・厚生労働省|指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十九号)
・厚生労働省|介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン
・厚生労働省|介護施設・事業所における自然発生時の業務継続ガイドライン
・厚生労働省|介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修
・厚生労働省|令和3年度介護報酬改定における改定事項について
・厚生労働省|指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について(平成12年3月17日老企第43号厚生省老人保健福祉局企画課長通知)(抄)
・厚生労働省|指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について(平成11年9月17日老企第25号)(抄)
・厚生労働省|指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について(平成11年7月29日老企第22号)(抄)
・e-gov|新型インフルエンザ等対策特別措置法
・厚生労働省|新型インフルエンザ等対策・特定接種について
(最終アクセス:2023年12月27日)
・厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について
・厚生労働省|令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15 日)
・厚生労働省|介護給付費算定に係る体制等に関する届出等における留意点について
(最終アクセス:2025年1月28日)
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